日本経済新聞「ロビー活動 信頼も作る」

2014年2月3日(月)

「もっと日本人の顔壕見せていこう」。米国で30年以上のロビー活動をしてきたトヨタ自動車が今、ある試みに挑んでいる。

日本の役員扱が政府関係者やケンタッキー、ミシシッピなど工場のある州の選出議員と直接会い、交流する機会を増やしている。日本人が自ら最前線に立ち、信頼づくりに努めるためだ。これまではもっばら米国人社員に任せていた。

トヨタの教訓

きっかけは、2009~10年に米国で燃えさかった大規模リコール問題での苦い経験だ。日本側は米政府の期待に沿ったテンポで対応できず、反トヨタの感情が拡大。豊田章男社長が米議会に呼び出された。最終的に米当局から「欠陥はみあたらない」との報告も出たが、裁判では巨額の和解費用がかかった。

「良き企業市民」を目指し、現地に根を張ってきたトヨタでさえ、「いざというときに味方になってくれる人は少なかった」 (同社関係者)。得た教訓をロビー活動に生かそうと懸命だ。

企業の活動は、社会から信頼と共感を受けていることが前提だ。法律作りに対する働き掛けにも当てはまる。政策決定プロセスが変わり、元経済産業審議官の佐野忠克弁護士は「密室での話し合いや、要望一辺倒ではもう通用しない」と話す。

昨年、楽天などが医製品のネット販売全面解禁を求めて議員などに働き掛けたロビー活動は、旧来の岩盤規制を崩せなかった。最高裁が大衆薬のネット販売を一律規制した省令は違法と判断。政府はルール見直しに取り組んだが、全面解禁とはならず、処方薬や一部大衆薬には新たな販売規制が設けられてしまった。

「公益につながる根拠を明確に説明しきれなかったのではないか」。外資系ロビー会社幹部の目にはこう映った。

公益性がカギに

ロビー活動の専門家は、世論を動かすための理由にこだわる。「金融商品取引法改正の活動をしてほしい」。ロビー会社、新日本パブリック・アフェアーズ(東京・千代田)の小原泰代表取締役は、外資系企業から舞い込むこんな依頼を断り続けている。明らかに利益誘導を狙ったものと判断したからだ。

同社は子宮頸(けい)がんワクチンや、新型インフルエンザワクチンの輸入・普及に関するロビー活動も担当している。いずれも賛否が巻き起こった政策だが、ワクチン技術で遅れる日本は海外勢のノウハウ吸収が課題だ。小原氏は「一般に括動を引き受ける判断基準は公益性だ」と明かす。

多くの人に呼びかけ、賛同の輪を広げるにはどうすべきか。ロビー活動が活発な米国では新たなうねりが起きている。

「知の自由が奪われた世界を想像してください」。2012年1月、百科事典サイト「ウィキペディア」の画面が真っ暗になった。知る権利を侵害しかねない知的財産権保護法案が米議会に提出され、ネット上で抗議括動を展開したのだ。

サイトは1億6千万人以上が閲覧し、3千本もの抗議電話を受けた議員もいたといわれる。結局法案は成立せず、法案推進のロビー活動に9400万ドルを投じたハリウッド企業側は、ネットを駆使した新たな活動手法に敗れた。

米ロビー会社、ボックスグローバル日本法人の野尻明裕社長は「ビジネスが多様化して経済団体も細かく分かれ、業界で意見をまとめることが難しくなっている」と指摘する。企業のロビー活動も、社会の共感を呼び起こすためのさまざまな知恵が求められている。


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