プレジデント2014/3/17号「自分と相手、世間がすべて納得する絵を描きなさい」

2014年2月24日(月)

「三方よし」で政治家・官僚を巻き込む敏腕”ロビイスト”

ロビイス卜とは、米諮問会ロビーで議員を待ち惰えて、特定の企業・団体の利害調整を請願する人々を指した俗語だが、その意味合いは時代とともに変わったようだ。今、永田町・霞か関にも活躍の場を得ている”ロビイス卜”。その筆頭と目されているのが、霞が関ビルにオフィスを構える新日本パブリック・アフェアーズの小原泰氏(50歳)だ。

天日に当てないと「根腐れ」を起こす

一般に我々の仕事は「ロビイング」と呼ばれますが、私自身は「政策アドボカシー(政策提言・権利擁護)」を行っているという・自負があります。米国での「ロビイング」は合衆国憲法で保障されている「請願権」行使の一形態。日本でも憲法第一六条に諮願権、すなわち立法時や法改正時に自分の意見を述べる権利があります。我々の仕事はいわばそのお手伝い。企業や業界団体といったクライアントの抱える問題を解決する仕事ですが、それだけではなく、消費者と世の中のステークホルダーも含めた全体がよくなっていくための問題解決をギリギリのところで展開します。近江商人の言う「売り手よし、買い手よし、世間よし」の”三方よし” が日本的なロビイングであり、我々のいうアドボカシーです。

そういった仕事柄、民間企業や官僚、政治家などを相手に根回しを行います。根回しという言葉は水面下の交渉とか裏工作というネガティブなイメージが強いのですが、元来は園芸用語です。樹木を移植する際に、数ヵ月から数年に亘って広がった根を根元を中心に残して切り、新しい根の成長を促すことで活着しやすいようにする。それが「物事を行う際に、事前に関係者から了解を得ておく」という意味に転じたのは割合最近のことだそうです。

植物に新しい根を張らせ、水分や養分をより活発に吸収させる。そのためには、根回しの後に天日に当ててやることが一番大切です。新しい政策の導入や機能不全の制度を改める際も同じ。オープンにしなければ活力は生まれません。日の当たらないところで進める裏工作は”根腐れ”を起こします。いわゆる料亭政治がそう。日本の政治は永年、世間からは見えない密室に利害関係者やその代理人が集まり、責任の所在も不明確なまま物事を決めてしました。でも、もうそれじゃ駄目。問題の所在を明らかにし、公開された場で議論することが大事なんです。

既得権益と相まって、今の日本は政・官・業がお互いに委縮しあう三すくみの状態。いわば役所かグー、業界がチョキで政治家がパーです。案件によって差もありますが、にっちもさっちもいかぬこの状況下では、生活者視点という「新しいチョキ」が、これまでとは違った切れ味を見せることがあります。たとえば、医療に関する案件を扱った際、患者団体を動かすことで事態か動き出したこともありました。こうした知恵を出すのも我々の仕事の一つです。

米ワシントンの日本コミュニティ

周囲に信用される「根回し」とは?若年時に約10年間、米ワシントンで働いた頃、日系企業の駐在員や各省庁のエリート、新聞記者など約400人が集まるコミュニティにいました。分野は違えど、国益を背負う彼らの仕事は情報収集です。私はわりといい事務所に勤めたおかげで、彼らに良質な情報を提供できました。当時はパブル崩壊後の1990年代半ば。様々な制度か硬直化し 、機能しなくなっていた日本社会の閉塞感をどうしたらよいか、ブレークスルーして新しい時代を切り拓くために何をすればよいか、皆悩んでいました。

そんな彼らと寄り集まって、「今これが問題だよな」と問題意識を共有し、改革の道を模索していつもディスカッションをしていました。それをおのおのが持ち帰って頑張る。何となくできあがった関係ですが、そうしたやり取りの中で互いの信頼関係がいつの間にかできていたように思いますし、帰国して日本の中枢を担うようになった彼らとの人脈が今、一番役に立っています。

現在の顧客はリピーターが多く、新規開拓のために交渉先との間に「信頼関係を築かねば」と、ことさら意識した付き合いはしません。ただ、顧客との関係維持には日常的に努めています。政治家に対しては、特に用事がなくても顔を出し、その時々で大事なテーマについてのディスカッションを年中やっています。ここぞと思ったときは「先生、これをやるべきじゃないですか」と、こちらの全人格を懸けて議論します。

そういった際に心がけるのは、「時間(=歴史)」「社会」「地球環境」の三つです。三つのうちのどれか一つを通じてその課題を大局的に俯瞰し、「大義」を立ててそれを唱道(アドボカシー)します。

大局を俯瞰して、「大義」を立てよ

 たとえば、外資系製薬会社の国内ワクチン市場参入を促す際は、時間=歴史を100年単位で遡ります。当時は野口英世や北里柴三郎らが世界の感染症の研究をリードしていた。その日本が今やワクチン後進国とまで一言われるようではいけない・・・・・・という具合です。

外資系の参入で風通しをよくし、弱体化した国内メーカーは彼らとの提携を通して技術を吸収し直し、再度一人立ちしなければならない。そのためにも、彼らの参入に協力してくれ、というわけです。

無論、信用できないクライアントからの依頼もあります。三方よしが念頭になく、自己の利益しか考えない相手だとわかれば、当然ですがお断りします。話を丸ごと信じてもいいのか、という慎重な眼差しが常に必要です。

ですから、窓口となる担当者と、長い時聞をかけて何回も議論を繰り返し、意思疎通を図ります。実際、相手の会社の真意が必ずしも明確でなくても、その担当者と自分との個人的な関係において、「まさか間違ったことはしないよね」という信頼関係を餓成していくわけです。

結局、我々の起こしたアクションによって世の中がよい方向に変わらなくては、やっているほうも面白くないわけです。

ある課題を鳥瞰的・大局的に捉え直し、大義を打ち立て、唱道することで周囲を巻き込み、問題解決に邁進する。そうした営為を積み重ねていくうちに、いい循現か生まれ、信頼関係もごく自然に築かれていくのではないでしょうか。


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